東京市下水道の章標

時代や土地によるが、電気・ガス・水道などを契約した場合、門柱や玄関先に小さなプレートやシールの掲示を求められることがある。
最近の東京では水道局が水道番号を並べた細長いプレートを採用しているくらいで、新しい建物ではあまり見かけないものになっているが、昭和中期以前と思しき古い民家などでは、琺瑯やブリキやなにかでできた直径数センチの金属板が戸口に打ち付けられて残っているのをよく目にする。

画像を見ていただこう。高田町の下水蓋を見つけたときに、近所の民家で見つけたものだ。

章票_都下水道目白

東電や水道局のボロボロに錆びたプレートに混じって、白と青の彩色が鮮やかに残ったものがある。
よくみると、マンホールマニアにはおなじみの東京市/東京都下水道局の紋章だ。
見つけたときには、一体これはなんなのかわからなかった。下水道を上水道と別個に契約することは昔から一般的ではなく、特段標示を出す理由が見当たらなかったためだ。もしかすると水道局の職員章なのかな、と思って判断を保留したまま、この物件のことを忘れていた。

ところが、燈孔の記事を書くために籠った工学部図書館で思いがけずその正体を知ることができた。
東京府下水調査事務所「東京府下水道改良工事調査大成」(1924-26)というガリ版手書き2冊組の資料をぱらぱらめくっていると、出くわしたのが以下の図面である。

章票_都下水道図面

間違いなく、目白で見たアレである!
これは「東京市下水道條例施行細則」(大正11.6.21 東京市告示第一〇四号)の付図であった。施行細則本文を見るとこうあった。

 第十一条 私設下水道竣工シタルトキ及條例第十二条ノ規定ニヨリ市長ノ認定ヲ受ケタルトキハ下水道義務者ニ対シ第七号様式ニヨル検査證及第八条様式ニヨル章標ヲ交付ス。前項ノ章標ハ門戸其他適当ノ場所ニ之ヲ掲出スヘシ。
 第十二条 公道以外ニ在ル旧来ノ排水施設ニシテ市長ニ於テ別二定ムル所ノ設計標準ニ抵触セズト認ムルモノハ之ヲ本條例ニ依ル私設下水道ト見做ス


つまり、下水道設備を自前で造ったり(あるいは旧来のドブの類を適切に整備したり)して、それが基準に沿っていると認定されれば、この章標がもらえたということらしい。
そういえば、この民家のすぐ近くに元排水路っぽい暗渠めいた路地があったが、あれがその私設下水道なんだろうか?
いつまであった制度なのかは分からない。ただ、多分滅多にあるものではないと思う。


2011/06/15追記
あれから、こちらのブログのコメント欄などでご教示いただき、戦後(都制施行後)にも「東京都私設下水道章標」なるものが存在していたことを知った。その後「排水設備等検査済証」と名を変え、わりと最近まで存続していたらしいことも教えていただいた。

さて、昨日谷中霊園辺りを歩いていたら、さっそく自分でも「私設~」の章票を見つけ出すことができた。存在をあらかじめ知っていなくては発見は困難だったに違いない。いちど現物を見ておくと古本なんかもだいぶ見つけやすくなるのと一緒で、まさに一見に如かず、というやつだ。

章標_都私設下水道_谷中
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因果なことにアカデミックニート=人文系大学院生でもある。
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