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    マンホール(100):東京市の阻水弇

    めでたくマンホール記事が第100号に到達した。めでたいのでネタもそれなりに良いものを取り上げたい。
    そこで、東京市の制水弇の状態の良いものが見つかったのでご紹介しようという次第である。
    阻水弇自体は以前も取り上げたけれど、既知のものは摩滅やキズ等でコンディションが悪いものだった。

      mh100-1阻水エン1.0
    文字がくっきりしていていい塩梅である。

      mh100-2阻水エン1.1
    引きで見ると文字や紋章がより鮮やかで彫りも深く、凛とした佇まいである。美しい。ハアハア。

      mh100-3阻水エン1.2
    さらに引くとこんな感じ。建物のすぐ傍だ。
    …駐輪場の看板でもわかるように、ここは実は東京大学本郷キャンパスの構内である。まん中の大きな丸蓋も「東京帝国大学 暗渠」の銘入りの蓋だ。そして写っている建物こそは東大のシンボルとして名(だけ)高い安田講堂なのである。尤も建物の裏手であり、学生も職員も「保健センター脇/生協前/ATM向かい」としか認識してはいない場所ではあるのだが。そんな日陰なロケーションが好状態での保存につながったと言えるから、ハンドホール万事塞翁が馬というところだ。

    さて、阻水弇は制水弇と名を変えたあと、さらに制水弁と名を変えて現在に至っている。機能は一緒だ。
    阻水弇の名称が使われたのはかなり早いうちに限られるようだ。仕様書のたぐいは見つからないが、「東京都例規集データベース」で水道関係の条例などを探してみると、「消火栓廻転方向及制水弇開閉標識制定」(昭和九年五月一八日 局長判決水発第一九六三号)というものが見つかった。内容を読むと、昭和九年前後には既に阻水弇ではなく制水弇が公式の名称となっていたらしいことがわかる。
    今回掲載の物件は、位置から考えても安田講堂の水道用に設置されたものらしい。講堂の竣工は1925年。阻水弇も同時期の設置だとすると、その頃はまだ阻水弇と呼んでいた時期だったと考えられる。って、あんまり使用時期を絞り込めたことにはならないな。

    それにしても、阻水弇はステルス機能でも備えているのだろうか。以前の御茶ノ水のものも今回のものも、幾度も通りかかったはずのところで思いがけず発見した。
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    マンホール(99):大久保町水道の蓋(と同下水蓋続報と猫)

    タイトルに掲げたように本題は大久保町水道についてなのだけれど、とりあえず前座として大久保町下水道の続報から。
    先の大震災の起こったちょうどその頃に、とあるマンホロジスト氏が(再)発見した新宿六丁目の物件を紹介する。

    mh99-1大久保町下水新宿6.0
    ある路地に三枚現存する内の一枚であるが、縁石がついているのは総計12,3枚と思われる大久保町下水の丸蓋のうちこれだけではないかと思う。蓋本体の状態も良好。なお詳しくはデータベースを参照のこと。

    mh99-3大久保町下水新宿6.2
    こいつを撮っていたら、向こうに猫が現れた。

    mh99-2大久保町下水新宿6.1
    私とマンホールの周りをしばらく行きつ戻りつし、

    mh99-4大久保町下水新宿6.3
    そして坐った。痩せていて可哀想だがくれてやるものがない。
    まあそれだけの話です。しばらく遊んでくれたが、エサをくれないと分かってのことかやがてどこかへ行ってしまった。



    さて、本題の上水の話。
    先達マンホロジスト氏の発見報告には続きがあって、それがすなわち以下に掲げるハンドホールの現存報告であった。

    mh99-5大久保町水道1
    側溝蓋の脇になにかある。

    mh99-6大久保町水道2
    これは! 止水栓の小蓋である。以前取り上げた荒玉水道の一枚目に形が似ている。このタイプだと、開けるときは右肺の凹みからなにか挿し込むのだろうか? 今や凹みも坪庭(トマソン的な意味で)と化しているし、開けようにも開かないかもしれない。

    mh99-8大久保町水道4
    上の写真でかかっていた枯葉を払い、紋章を拡大。「大」「上」の二字で囲んであるのか、これは?

    mh99-7大久保町水道3
    さっきの猫と下水蓋と併せて、二等辺三角形をなす構図。


    林丈二「マンホールのふた」には、排気弇の蓋一枚と、ここに掲載したのとは違う型の制水弇が掲載されている。当時は小さい蓋なら散見されたらしいことが林氏の記述から伺えるが、今日では制水弁類の小蓋もそうそう残ってはいないだろう。
    大久保町水道の沿革等は実はまだそんなに調べていない。供給開始が昭和4年なので三年くらいしか運営されていないはずで、昭和2年の「日本水道史」辺りではまだ計画段階とされている。同書によると水自体は東京市から得ていたものらしい。

    マンホール(98):東京都水道局の通信線

    夕ぐれ時の渋谷で見つけた、水道局の丸蓋である。

      mh98-1(水道局通信線)  mh98-2(水道局通信線拡大)

    「通信線」とあるが、具体的にどのように使われているのかは知らない。
    水道には量水器やら圧力計やら多数の計測機器が使われているが、そうしたものが採取したデータを遣り取りしているのかもしれない。

    東京市下水道の章標

    時代や土地によるが、電気・ガス・水道などを契約した場合、門柱や玄関先に小さなプレートやシールの掲示を求められることがある。
    最近の東京では水道局が水道番号を並べた細長いプレートを採用しているくらいで、新しい建物ではあまり見かけないものになっているが、昭和中期以前と思しき古い民家などでは、琺瑯やブリキやなにかでできた直径数センチの金属板が戸口に打ち付けられて残っているのをよく目にする。

    画像を見ていただこう。高田町の下水蓋を見つけたときに、近所の民家で見つけたものだ。

    章票_都下水道目白

    東電や水道局のボロボロに錆びたプレートに混じって、白と青の彩色が鮮やかに残ったものがある。
    よくみると、マンホールマニアにはおなじみの東京市/東京都下水道局の紋章だ。
    見つけたときには、一体これはなんなのかわからなかった。下水道を上水道と別個に契約することは昔から一般的ではなく、特段標示を出す理由が見当たらなかったためだ。もしかすると水道局の職員章なのかな、と思って判断を保留したまま、この物件のことを忘れていた。

    ところが、燈孔の記事を書くために籠った工学部図書館で思いがけずその正体を知ることができた。
    東京府下水調査事務所「東京府下水道改良工事調査大成」(1924-26)というガリ版手書き2冊組の資料をぱらぱらめくっていると、出くわしたのが以下の図面である。

    章票_都下水道図面

    間違いなく、目白で見たアレである!
    これは「東京市下水道條例施行細則」(大正11.6.21 東京市告示第一〇四号)の付図であった。施行細則本文を見るとこうあった。

     第十一条 私設下水道竣工シタルトキ及條例第十二条ノ規定ニヨリ市長ノ認定ヲ受ケタルトキハ下水道義務者ニ対シ第七号様式ニヨル検査證及第八条様式ニヨル章標ヲ交付ス。前項ノ章標ハ門戸其他適当ノ場所ニ之ヲ掲出スヘシ。
     第十二条 公道以外ニ在ル旧来ノ排水施設ニシテ市長ニ於テ別二定ムル所ノ設計標準ニ抵触セズト認ムルモノハ之ヲ本條例ニ依ル私設下水道ト見做ス


    つまり、下水道設備を自前で造ったり(あるいは旧来のドブの類を適切に整備したり)して、それが基準に沿っていると認定されれば、この章標がもらえたということらしい。
    そういえば、この民家のすぐ近くに元排水路っぽい暗渠めいた路地があったが、あれがその私設下水道なんだろうか?
    いつまであった制度なのかは分からない。ただ、多分滅多にあるものではないと思う。


    2011/06/15追記
    あれから、こちらのブログのコメント欄などでご教示いただき、戦後(都制施行後)にも「東京都私設下水道章標」なるものが存在していたことを知った。その後「排水設備等検査済証」と名を変え、わりと最近まで存続していたらしいことも教えていただいた。

    さて、昨日谷中霊園辺りを歩いていたら、さっそく自分でも「私設~」の章票を見つけ出すことができた。存在をあらかじめ知っていなくては発見は困難だったに違いない。いちど現物を見ておくと古本なんかもだいぶ見つけやすくなるのと一緒で、まさに一見に如かず、というやつだ。

    章標_都私設下水道_谷中
    プロフィール

    rzeka

    Author:rzeka
    マンホール等探索者。

    因果なことにアカデミックニート=人文系大学院生でもある。
    rzekaはポーランド語で川の意。因みに発音はIPAだと[ˈʒɛka]になる。「じぇか」に近い音。



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