マンホール(90):自働洗滌槽の蓋

戦前の下水道では多く設置されていたのに現代では全く用いられなくなった設備が、素人の私の知る限りでも二つある。
ひとつは、今後扱う予定の燈孔(ランプホール)、もうひとつが本稿で扱う自働洗滌槽である。

自働洗滌槽とは何か。当時の下水道工学書によれば、それは下水の流量が少なく汚泥が溜まりやすい箇所に設け、貯めた水を時たま一斉に放流することで沈殿を除去する装置であるらしい。二つの槽からなり、片方の槽内に水(これは上水道管から引いてくるのだろうと思う)を貯め、一定量になると自動的にもう片方の槽(こちらは下水管に直結する)に流れるようサイホン管を仕掛けておく、というものである。
林丈二氏は千代田区・中央区に12箇所、港区に1箇所見つけていたという。各所で報告される発見例は都心ばかりであるが、これはこの一帯が割と平坦であって、下水の自然流下がさほど期待できない事に起因するのだと思う。下町の住宅地でも古くから開けた土地には設置されていたと思われるが、そういう土地は戦災で丸焼けなので残存例がないのではなかろうか。なお、昭和初期の第3期下水道工事では2184個も設置されており、元来はそう珍しいものではなかったといえる。

まずは東京市下水道設計標準図収載の図面からお目にかけよう。スキャナでなくデジカメ撮影で見にくいのはご容赦願いたい。大昔の公文書なので、著作権等は当然フリーだ。

mh90-4自働洗滌槽甲種図面 mh90-5自働洗滌槽乙種図面 mh90-6自働洗滌槽内部図面
左:甲種の蓋。∧形に「自働洗滌槽」の文字が入り、穴はない。
中:乙種の蓋。文字はなく、代わりに穴が開いている。
右:内部図解。左側の槽が上水を汲むサイホン装置で、装置が雨にぬれてはまずいためだろうか、穴なしの甲種をはめる。右側の槽は下水だから、ガス抜き穴が要る。

このように、甲種2枚1組と乙種2枚1組の計4枚2組の蓋が、一基の自働洗滌槽には使用される。
しかし、現存するものはしばしば甲乙を取り違えてあったり(「マンホールのふた」掲載の蓋)、甲乙の一方しか無かったりである。
そんななか、先日twitter上で自然発生した「2011年2月3日深夜の人孔蓋祭!」の最中に、完全な形で残った自働洗滌槽の蓋情報を手にいれたので、フィルムセンターに行くついでに見てきた。

mh90-3自働洗滌槽
奥が甲種、手前が乙種。もっと引いた構図でも撮りたかったのだが、車がいて断念。

mh90-1自働洗滌槽
甲種。

mh90-2自働洗滌槽
乙種。

なお、見てお分かりのように、この一組の蓋、下水道局マークが背中合わせというか、乙種の天地が逆であるようにも見える。それが仕様なのか否かは判断できないが、その一点においてこの蓋も実は不完全なのかもしれない。そうだとしても、それはささいなことだ。
デザインとしては特殊人孔蓋につながるものといえようか。摩滅具合といい、素敵の一語に尽きる。




追記2011/03/11
燈孔の記事をかきました。
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No title

こんにちは。
昨日、自働洗滌蓋を見つけたばかりでしたので他にも存在していたことに驚いています。
磨滅具合から見ると、私の見つけた蓋とは別の蓋の様ですね。
こちらの蓋の方が状態は遥かに良好です。
なお蓋の向きですが、私が見た蓋は同じ方向を向いていました。

No title

こんにちは、甲乙完備の蓋がまだ他にもあるんですね。興味深い。
この蓋の所在地地図を足しておきましたので宜しければご確認下さい。
googleストリートビューにも写っています。

No title

おはようございます。
自働洗滌槽の記事を書くに当り、このページの記事をリンクさせて頂きました。
京橋と浜松町の蓋について書いております。
よろしければご笑覧ください。
記事はこちら → http://blogs.yahoo.co.jp/yumenoirigutide/28328953.html

No title

記事拝見しました。大通りにつながる細い路地、というのは重要な指摘かもしれません。
時たま多量の水を流すシステムである以上、受ける側の管渠はそれなりの規模がなくてはならない(泥吐室が河川や元河川の幹線の傍にあるのと同じ理屈)…みたいな推測が可能ではないかと思いました。

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