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    文科系乱読アカデミックニート養成ブックリスト【日本編・2/2】第2版

    承前、後半の50冊である。
    書影は別エディションや類書の場合もある。

    第1版公開:2011/03/28 第2版公開:2013/02/10

        
    【51】1985 赤瀬川原平『超芸術トマソン』(ちくま文庫、1987)
     震災復興で激動する街を今和次郎の考現学【→9】が捉えたように、バブルに沸き再開発の荒れ狂う東京を舞台に「路上観察学会」を組織し記録した人々がいた。林丈二ら【→48/60/69】も加わっていたそのグループの代表格が前衛芸術家の赤瀬川である。本書では、建築や路上に何のためにでもなく美しく残存する諸々の物件を「トマソン」と名づけ紹介した。この分野では古典なので避けては通れまい。
    【52】1986 手塚治虫『火の鳥 10・太陽編』(朝日新聞出版、2009)
     手塚のきちんとまとまった長編としては最後のものかもしれない(シリーズ全体では勿論未完ではあるが)。一篇の中で過去(壬申の乱)と近未来を行き来する構成はシリーズ中でも唯一ではなかったかと思う。それゆえに分量も大きく、読み応えも大きい。
    【53】1986 小松和彦『新編・鬼の玉手箱―外部性の民俗学』(福武文庫、1991)
     しかし民俗学系【→20/22/27/49/86】の本が多いな。それについては、専門外だからこそ趣味で楽しく読んでいる面が大きいと思う。古来よりの民俗の背後に隠された異界をめぐる軽めの文章を主に収める。陰陽道の系譜に連なる「いざなぎ流」の話などを本書で知った。【→74】などの参考にもなるか? より専門的になるが「憑霊信仰論」という著作も面白い。
    【54】1987 小林恭二『ゼウスガーデン衰亡史』(ハルキ文庫、1999)
     小さな遊園地の発達史がエスカレートし、いつの間にか欲望を吸って肥大し国まで牛耳る。もちろんタイトル通り衰亡の道を歩むわけであるが…。バブルに背を向ける系【→51/59】はちゃんと時代を経ても読ませるものが多い気がするな。
    【55】1987 中野孝次『ハラスのいた日々』(文春文庫、1990)
     【→26】とともに、犬愛好家の涙を誘ってやまない著者の代表的エッセイ。柴犬の一生もの。わんこ! わんこ! わんこ!

        
    【56】1987 澁澤龍彦『高丘親王航海記』(文春文庫、1990)
     仏法を求め入唐しその後天竺を目指した実在の親王に取材した、澁澤龍彦の最後の小説。幼時の刷り込みで猟奇の徒と化した親王の南海行。見えるものと想われるもの、正気の認識と狂気の産物、現と夢が相互侵犯し、病み衰えた脳髄に息づく時なにが起こるか―。
    【57】1988 唐沢なをき『カスミ伝(全) 』(エンターブレイン、2008)
     くノ一漫画の体裁をとった実験漫画。マンガ表現のあらゆるお約束を手玉にとった刺激的な大傑作。この手のメタ的ギャグ漫画【→60】は、60~70年代の「ガロ」や「COM」の頃にはあっただろうし、絶頂期の「天才バカボン」でも試みられていたが、ここまで極めたのは唐沢なをきが空前絶後。
    【58】1988 泉昌之『ズミラマ』(双葉社、1988)
     泉昌之は年代相応に古びている辺りが、80年代後半のギャグマンガを知るのにちょうどいい。世代を越え得ない作品を読むことにも意義はあると思う。本巻は四コマ主体。
    【59】1988 三好銀『三好さんとこの日曜日』(小学館、1992)
     本作で売りだした後沈黙した三好銀は、一昨年くらいから「コミックビーム」【→58/73/75/89】上に短編を発表し始めた。その第一回で気になるものがあり、当時は叩き売られていた本書を早速買ってみたのは我ながら先見の明があった(再デビュー後のいま買うと千円はする)。夫婦と猫の西荻生活を淡々と描く、などと書くといかにも陳腐な腐れ中央線サブカル漫画と受け取られそうだが、そんな手垢のついたものではない独自の空間を創造できている。
    【60】1988 とり・みき『遠くへいきたい』全5巻 (河出書房新社、1997-2007)
     長く雑誌に連載された作品。正方形を3×3の9コマに区切ったフォーマットが一貫しており、その枠組みの中で可能な様々な実験【→57】が試みられ、あるいは不条理かつセンス・オブ・ワンダーに満ちたギャグが提示される。閃きがありつつ理に落ちる面白さはSFに通じるかもしれない。

        
    【61】1989 相原コージ・竹熊健太郎『サルまん サルでも描けるまんが教室』全2巻 (小学館、2006)
     (ここから先は90年代。書名でググれば情報も出てくるし、コメントは控えめにする。60冊分もコメント付けるのって大変な労力だった。商売でこれやってる人たちは凄い!) 「漫画の描き方」という本は、手塚【→24/52】や石ノ森によるものが古典として定着した隠れた一大ジャンル。本作はそのフォーマットに従いつつ、コンテンポラリで現実的なヒット漫画指南を提示。また作中作を通じて作品と作家の栄枯を書ききった。【→57】とはまた違う形で先鋭的なギャグを創造した。
    【62】1990 稲生平太郎『アクアリウムの夜』(角川スニーカー文庫、2002)
     【→87】と並んで一部では既に伝説と化した幻想小説の一級品。地下【→100】・水・神秘主義その他諸々に惹かれる者は必読。筆者の本業は英文学者で、稲生の名では他に小説一冊・類書とは一線を画したUFO本一冊などを出している。
    【63】1990 筒井康隆『文学部唯野教授』(岩波現代文庫、2000)
     筒井康隆の恐らく「時をかける少女」の次に売れた本。【→37】のようなスラップスティックの筆致健在の大学内幕ものと文学理論の名講義とが交互に語られる、普通ベストセラーにはならんような本なのだが…。講義編は本邦第一線の文学理論家のお墨付きを得たもので、入門にもよいだろうと思う。
    【64】1990 山下洋輔『ドバラダ門』(新潮文庫、1993)
     筆者は周知のように高名なジャズピアニストで筒井【→37/63】の盟友。文を書かせても一流。題名は、筆者の祖父であるところの建築家が明治期に建てたケッタイな門のこと。中身もものすごくケッタイなので紹介に困る。まずはご一読をとしか言えない。
    【65】1990 鈴木博之『東京の地霊(ゲニウス・ロキ) 』(ちくま学芸文庫、2009)
     このリストでは東京本をいろいろ挙げているが、本書は【→9/48/51】のような近代都市としての東京の来歴を取り上げたものとは異なり、【→91/100】に近い。つまり、有史以前からの天然の地勢が、いかに江戸東京の街の来歴に影響してきたかを扱っている。リストに入れ忘れたが、陣内秀信「東京の空間人類学」と並ぶこの分野の基本図書だ。最近復刊されてめでたい。高いけど。


    【66】1991 藤子・F・不二雄『未来の想い出』(小学館、1992)
     漫画ファンの中には、藤子Fの真骨頂はSF短編にあると考える向きは多い。私もそう思う。本書はSF短編のセンスで描かれた全1巻完結の中編。漫画は雑誌事情などの制約上無駄な引き伸ばしや短期終了に遭うことが多く、この長さでよくまとまった作品は少ないので貴重である。晩年のF氏に「ドラえもん」ばかり描くことを強いた出版社は?ねばいいのに。
    【67】1991 恩田陸『六番目の小夜子』(新潮文庫、2001)
     有名だし解説するまでもない基本図書だろう。ただちゃんとオチてる辺りが多くの恩田作品とは異なるところ。
    【68】1991 筒井康隆『朝のガスパール』(新潮文庫、1995)
     今はtwitter連動で漫画を描いたり【→60】する、ネット(を通じた読者の声)と作品を連携させた企画も珍しくないけれど、本書はその先駆的なもの。なにしろ1991年というまだwwwも一般には使われていなかった時代に、朝日ネットのパソコン通信を通じた読者参加システムを反映させつつ朝日新聞に日々連載したのだから凄い。作中にはネトゲもミセス・ワタナベも登場し、近未来のIT予想としてもかなり現実的で、いい線いっている。なお、AAや荒らしが早くも出現したパソ通のログは「電脳筒井線」全3巻として刊行されており、「電車男」やらのログ本のハシリとなっている。
    【69】1991 荒俣宏『大東亜科学綺譚』(ちくま文庫、1996)
     學天則の西村真琴【→71】、中井英夫【→31】の父・猛之進、星新一の父・一など、主に戦前の異能の科学者たちの列伝。以上に肥大した探究心というのは政治的にはしばしば侵略の欲望とパラレルに発達するのだが、本書で取り上げられた人々の仕事はやはり帝国主義とリンクしている(その点書名は妥当だ)。なまじの平和よりは、ある意味エキサイティングな時代ではあったようだ。
    【70】1992 竹本泉『アップルパラダイス』全3巻 (ホビージャパン、1994-7)
     一種の奇想SF…といっていいのかこれは。変な話としか言いようのない連作短編集。


    【71】1993 井上晴樹『日本ロボット創世紀 1920-1938』 (NTT出版、1993)
     フィクションと現実の両面において、本邦でいかなる「ロボット/人造人間」が想像【→13/18】・創造【→69】されてきたかを扱っている。膨大な資料を踏まえまとめあげた労作。非常に面白い。
    【72】1993 佐々淳行『東大落城―安田講堂攻防七十二時間』(文春文庫、1996)
     1969年の東大入試を中止に追い込むほどに荒れた学生運動【→99】だが、それは安田講堂陥落を以て一区切りし、以降は連赤事件の不毛な結末へと向かった。著者は機動隊を指揮する側にいた人であるが、学生側の書いた本よりは広い視野でものを見ている。公務員はとかく叩かれるが、さすがキャリアは「全体の奉仕者」としての自覚がある。一マンホール【→48】マニアとしては、本郷キャンパスにある「帝」大時代のマンホールが運動家によって毀損されなかったことが喜ばしい。彼らにはまさしく「足元」が見えていなかったのだと思う。
    【73】1995 永野のりこ『電波オデッセイ』全3巻 (復刊ドットコム、2011)
     レトロSFなどを下敷きにしたコメディの枠内で驚くほど繊細に孤独と救済を描き、ナガノ者と呼ばれる熱烈なファンも多い異能の漫画家・永野のりこの総決算的長編。あまりの総決算ぶりでこれ以降沈黙に近い状況が続いているのは残念であるが、最近復刊されたのはめでたい。
    【74】1996 京極夏彦『鉄鼠の檻』(講談社文庫、2001)
     有名シリーズである。多言は要すまい。長さに釣り合う満足度はこれが一番と思い選出。
    【75】1997 新谷明弘『未来さん』(アスキー、1998)
     コミックビームのわりと初期に【→58/73/89】掲載されていたというSF連作短編集。これが埋れているのはなんとも勿体無い! 奇想と正統、レトロとコンテンポラリの調和した作風に、独特のペン主体の画風が絶妙(まあ絶妙ととるかどうかは人を選ぶとは思うけれど)。余談だが、私が同人誌即売会に行ったのは、筆者の自費出版の短編集を得るためのコミティア一回だけである。


    【76】1999 山川直人『この星の空の下(口笛小曲集所収)』(エンターブレイン、2005)
     またもコミックビーム【→58/73/75/89】系の作家。やっぱり私の如きアカデミックニートな読者にとってこの雑誌は打率高い。研究室の先輩等でも3人くらい読んでるな。ガロの後裔とでもいおうか。この作家もペンのみの画風。
    【77】1999 永瀬唯『欲望の未来―機械じかけの夢の文化誌』 (水声社、1999)
      筆者は(今となっては凋落著しい)と学会メンバー。全くと学会も惜しまれるうちに早いとこ幕引けばよかったのにねえ…というのは余談。【→19】についての良い文献なので選出。他の文章は私にとって題材があまり馴染みがなかったのだが、まあ読んで損はない。
    【78】2000 倉知淳『壺中の天国』(創元推理文庫、2011)
     筆者は脳天気本格ミステリの第一人者で、私はミステリ界の唐沢なをき【→57】だと常々思っている。角書きが「家庭諧謔探偵小説」と来たもんだ。なんだそりゃ、と思うだろうが、正しくその通りの内容である意味感心する。連続通り魔殺人事件の出来した街の主婦が主人公なのだが、一向に事件に巻き込まれるでもないままに後半にさしかかり、一体どうオチがつくやらと思っていると、驚くべき伏線を下敷きにした推理が示される。第一回本格ミステリ大賞というのを番狂わせで獲ってしまった怪作。
    【79】2000 真木武志『ヴィーナスの命題』(角川文庫、2010)
     刊行当時は一部でかなり話題になったらしい、非常に難解な青春ミステリ。真相がはっきり明かされることはなく、読者は登場人物の語りが信頼に価するものか吟味しつつの読解を求められる(所謂純文学では当然のアプローチだけど)。二読三読は必須。私も三読して得た一応の結論があったのだが、もう忘れてしまっている。折角文庫で復刊されたのだから読んでおくべし。
    【80】2000 ほりのぶゆき『旅マン』(小学館、2001)
     旅をしなければ死んでしまう「旅マン」に改造されてしまった男と、彼の前に現れては邪魔をする「旅魔人るるぶ」の珍道中。…ええその通り、おバカなギャグ漫画である。時にはこういうのもいいですぜ。


    【81】2001 小池桂一『ウルトラヘヴン』既刊3巻(エンターブレイン、2001-)
     読むドラッグ。薬物による幻覚の描写といえばいにしえのサイケがあるが、現代における新たな表現として見るべき点あり。
    【82】2001 高田渡『バーボン・ストリート・ブルース』(ちくま文庫、2008)
     「ブラザー軒」【→36】「生活の柄」「自衛隊に入ろう」等で名高いフォークの神様の自伝的エッセイ。あまりに酒を飲み過ぎて早くに死んでしまったのは残念だ。
    【83】2001 米澤穂信『氷菓』(角川文庫、2001)
     最近ではすっかり人気作家となった作者のデビュー作。ラノベのレーベルで出すような青春ミステリに、往年の学生運動【→72/99】なんてテーマを盛り込む着眼点が当時としては独特でいい。
    【84】2001 米原万里『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫、2004)
     冷戦はあくまで国/国家連合同士でなされたものであり、冷戦下にあっても個々人は国のようには単純に左右東西に分け切れぬものである、ということが実感として解る。プラハのソヴィエト学校で小学校時代を過ごした特異な経歴を回顧し、東欧諸国の体制の変化に翻弄された旧友たちの足取りを追っていく。出色は第三話で、これは米澤穂信【→83】「さよなら妖精」の愛読者にも是非読んでもらいたい。
    【85】2002 沼野充義『徹夜の塊 亡命文学論』(作品社、2002)
     著者はロシア・ポーランド等スラヴ文学や越境・亡命文学研究の第一人者である世界的な文学者(私事ながら我が師匠でもある)。本書は代表的論集。固い論文のスタイルではないのに中身はものすごく濃い、読みやすく為になる一冊。


    【86】2002 遠藤ケイ『熊を殺すと雨が降る―失われゆく山の民俗』 (ちくま文庫、2006)
     また民俗学系【→20/22/27/49/53】の本だ…。いやあ我ながらよく出てくるなあ。マタギ【→26】に興味があったり、野生動物が好きだったりしたら楽しめよう。
    【87】2002 西崎憲『世界の果ての庭―ショート・ストーリーズ』(新潮社、2002)
     構成力によってまだまだ新しい物語をつくりだすことは出来るんだ、と感銘した幻想小説の名作。大体5つか6つの流れに属する断片を繋ぎあわせたスタイルなのだが、「理に落ちる」類の脈絡のつけ方ではなく、曖昧なままの箇所やノイズに近い断片も残される。理屈ではなぜだかわからないのに、見たことのない世界が確かに像を結ぶ。これは読んでもらうしかない。
    【88】2003 笹公人『念力家族』(インフォバーン、2004)
     SF・オカルト・サブカル等に取材したチープかつ奇妙な味の短歌集。はっきり言って収録作の過半はkusoみたいな歌で、ちょっといいと思わせるのさえ3割もない。だが一割くらいは本物が混じる(まあ歌集なんてどんな大家のものでもそんなものかもしれない)。「おっ、これはいいな」と思わされたのは大抵短歌雑誌で入選しており、選者はさすがと思わされた。あるいは、私が在来歌壇の感覚に近すぎるのか? 
    【89】2004 クリストフ・クリタ『冒険野郎伝説 アヴァンチュリエ』(エンターブレイン、2008)
     またも出た、コミックビーム【→58/73/75/76/93】掲載作品。作者は日仏ハーフで、両国のマンガを吸収して自分の画風としているようだ。19世紀SF風の冒険譚とそうした画風が実によく合う。
    【90】2004 辻原登『枯葉の中の青い炎』(新潮文庫、2007)
     表題作はスタルヒンの300勝・呪術・中島敦というとんでもない取り合わせをマジックリアリズム的方法で纏めた傑作短編。文章でならなんでもできる(腕前さえ良ければ)という見本。なおこの作者の講義録に我がコメントが少々採録されているのだが、掲載書は貰えなかった。金くれとまでしみったれたことは言わんが、本くらいよこせと未だに根に持っている少しはしみったれた私である。


    【91】2005 中沢新一『アースダイバー』(講談社、2005)
     水辺や台地の突端に寺社が多いのはなぜか? 縄文から現在に至るまで受け継がれてきた東京の土地に染み付いた記憶を探る。【→65】の発想をより水辺【→100】に特化させたエッセイ。
    【92】2005 梨木香歩『沼地のある森を抜けて』(新潮文庫、2008)
     糠味噌ファンタジーと呼べる小説はこれくらいだろう。
    【93】2005 須藤真澄『長い長いさんぽ』(エンターブレイン、2006)
     猫を看取る【→26/55】話。年取った犬猫等飼っていると応える…。またかよと言われそうだが、またしてもコミックビーム【→58/73/75/76/89】。回し者じゃないぞ。週刊漫画誌のように目先の客受けにとらわれて描かれたのでは消費期限も短期間にとどまり、紹介するほどのものが生まれてこないというだけの話だと思う。
    【94】2005 恒川光太郎『夜市』(角川ホラー文庫、2008)
      暗渠【→100】愛好家の感覚に近いものがこの作者にはあるはずだ。 
    【95】2005 西村賢太『どうで死ぬ身の一踊り』(講談社文庫、2009)
     思いがけず芥川賞を獲って思いがけず売れに売れている作者の商業デビュー作。藤澤清造への傾倒が最も表面に現れた作。それにしても本当に出るんだろうか、藤澤清造全集。2巻目くらいまで出す金は手にしたはずだが。



    【96】2006 佐藤優『自壊する帝国』(新潮文庫、2008)
     著者は鈴木宗男疑惑の最中に「国策逮捕」された外交官(神学修士!!)で、対ロシア外交や諜報についての論客である。ゴルバチョフ末期からソ連崩壊、エリツィン時代までの動きを居合わせた人間の目から具に記したものだが、描かれた権力闘争は神話的でさえある。
    【97】2007 原武史『滝山コミューン一九七四』(講談社文庫、2010)
     「政治の季節」【→72/99】は、70年代には表面的には収束したようでいて実は教育の現場に沈潜していた。そのことを、筆者自身が「団地の小学校」という閉じた空間で経験したことを基に暴いていく。ニュータウンと政治性との関係が気になっていた時読んで膝を打った。
    【98】2007 こうの史代『この世界の片隅に』全3巻 (双葉社、2008-9)
     「夕凪の街 桜の国」という清冽な原爆もの中編が評判になった作者が、呉と広島の戦時下と戦後の生活に材を求めた長編。物語も絵も丹念でそれだけでも見るべき作品だが、同時に漫画表現を巡る挑戦【→57/60】にも取り組んで成功している。なおかつそれが内容とも高次に融合調和しているのに舌を巻いた。既に21世紀、否、第三千年紀を代表する長編漫画という位置づけは確定だろう。仮にこのリストから更に厳選してベスト5を選ぶとしても、私は本書を残す。なお最近映像化に伴ってか全2巻の普及版が出たが、判型も大きい3巻本を推す。
    【99】2009 小熊英二『1968』全2巻 (新曜社、2009)
     上下巻いずれも1000頁超えの大著。当時もののあらゆる証言をひたすら集めてまとめあげた。今後この時代【→72】を論じる者には本書は避けて通れまい(まあ2000頁を読まねば論じる資格なし、みたいになるのはそれはそれで問題である。本書は拾い読みのための便宜をも図ってあるのはいい)。
    【100】2012 『地形を楽しむ東京「暗渠」散歩』 (洋泉社、2012)
     【→65/91】のように東京という土地を成り立ちから解剖する本はいくつかあったが、本書は初めて出た暗渠特化型のムック「東京ぶらり暗渠探検 消えた川をたどる!」を増補し上製本に仕立てたもの。かなりマイナーな暗渠をも網羅してあり、(元々質は高かったが)こんどこそ決定版に近い出来栄え。

    追記2018/06/03

    リストの更新準備に際しての追加候補(一部)
    ぼくのシネマ・グラフィティ (新潮文庫) 田中 小実昌
    仲代達矢が語る日本映画黄金時代
    映画探偵: 失われた戦前日本映画を捜して
    山之口貘詩文集
    戦争中の暮しの記録
    「終戦」の政治史
    廃道探索 山さ行がねが
    不良少年の映画史
    謎の独立国家ソマリランド
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    翻訳編
    誰がドルンチナを連れ戻したか
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    Author:rzeka
    マンホール等探索者。

    因果なことにアカデミックニート=人文系大学院生でもある。
    rzekaはポーランド語で川の意。因みに発音はIPAだと[ˈʒɛka]になる。「じぇか」に近い音。



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