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マンホール(113):東京市(都?)の消火用吸水孔

現在は暗渠となっている渋谷川の八千代橋の上に、東京府の設置した「消火用吸水孔」なる蓋が2枚残っていることは暗渠/マンホールマニアの間ではよく知られている。
この消火用吸水孔の実態はよく分かっていない。渋谷川改修工事の記録から昭和10年ごろの設置ではないかと推測されているが、定かではない。また、そもそも開渠から水を汲むのに橋の上に孔を開ける必要があるのか(適当に水面にホースを放り込むのではいかんのか?)、あるいは蓋の下にはなにかポンプ的な設備があるのか等々、機能に関しても疑問が多い。他に設置例がないことから類推も難しく、親しまれている割に生態のわからないという、ウナギやスズメのような蓋であった。

ところが先月、善福寺川に架かる和田廣橋に東京市/都章入りの消火用吸水孔があるという発見報告が飛び込んできた。早速(でもないが)、用事のついでに調査に行ってきた。

mh113-1 都消火用吸水孔
まずは問題の橋を脇から見てみる。蓋はだいたい橋の真ん中にあるが、真下にはとりあえず大きな装置などは見えない。ありふれた普通の橋だ。

mh113-2都消火用吸水孔
そしてこいつが問題の蓋である。府の蓋と違い、外枠に斜め格子の地紋がない。また、内側の地紋も粗い。特に他の蓋との類似点等はない。

mh113-3都消火用吸水孔
文字の拡大。府のものとも違っている。

mh113-4都消火用吸水孔
鍵孔。覗いてみると水面の流れが直に見える(動画にしてみた⇒mh1137.swf)ので、現在蓋の下は筒抜けであることが伺われる。かつてはなにか装置があって、取り外されてこうなったのかもしれないが。

mh113-5都消火用吸水孔
橋の向こうを見てみる。中野区だ。ところで橋の真ん中のここは何区なんだろう…。

mh113-6都消火用吸水孔
今度は中野区に立って橋を見てみる。橋の親柱の下の方に「T10」と書いてあったが、これは大正10年完成の意味かもしれない。古い地図等を見比べて想定しうる設置年代が、実のところちょうどその頃なのだ。
ただ、大正10年にかけられた橋であったとしても、架橋当初から消火用吸水孔が設置されていたということはなさそうだ。大正年間には東京市外であったこの橋に、東京市章入りの蓋があるのは変だ。大正からあったなら、こちらも府の設置でなくてはおかしいことになる。
もっとも、渋谷の蓋でおなじみの府章は昭和6年だかの制定なので、大正期に設置例があったとしてもあの府章は付いていなかっただろうが(ああややこしい!! 一見さんには何言ってんだか解るまいな…)。


   ※   ※   ※   


開渠上の消火用吸水孔を実見して気づいたが、孔は大体橋の中心、すなわち川幅の真ん中辺りに開けられていた。もしかすると、流れのうちでいちばん深さのあるところから水を得ようというのが消火用吸水孔の趣旨ではなかったかと思われた。橋上や岸からやみくもにホースを放り込むよりは効率がよさそうである。

また、これらが設置されたと思われる昭和初期の東京の消防について文献を探してみた。そのものずばりの資料はなかったが、関連のありそうな規程を発見した。1930年7月に制定された「非常時火災警防規程」というものである。
これは関東大震災の失敗を踏まえたうえで、大災害、さらに来るべき空襲(日米開戦が現実味を帯びるよりかなり早くから防空の必要は喧伝されていた)に備えた防災計画を定めようとするものだった。

この規程の幾つかの項目の中には、「自然水利の整備」も含まれているようだ。
関東大震災のときには、どうやら消火栓は断水等で十分な成果を挙げられなかったのが実情であったらしい。まして空襲対策を考えるなら、配水管がやられたら末端の全消火栓が死にかねない上水道依存の防火計画ではダメだったわけである。
少しでも安定した自然水利を確保することが帝都の防衛のために求められた時代であった。確証はないが、消火用吸水孔はその一環として設置されたものだったのかもしれない。今後同様の蓋がさらに出てくれば類推も深まるかもしれない。
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八千代橋架橋時期について

とりあえずコメ欄に補足。
八千代橋の架橋は昭和10年9月とのこと。
参照:『渋谷の橋』(東京都渋谷区教育委員会、1996)

No title

(筆者本人による追記)
消火用吸水孔についてさらに調査して記事を書きました↓
http://rzeka.blog88.fc2.com/blog-entry-408.html
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Author:rzeka
マンホール等探索者。

因果なことにアカデミックニート=人文系大学院生でもある。
rzekaはポーランド語で川の意。因みに発音はIPAだと[ˈʒɛka]になる。「じぇか」に近い音。



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