マンホール(117):謎の「工下」空気弁の蓋


去年の9月6日に見つけてはいたのだが、正確な場所などを失念してそれっきりになっていた蓋である。
工業用「水道」ならば、23区北部の地盤沈下が懸念される一帯に東京都が供給しているものだ(これらの記事を参照のこと)。
しかし工業用「下水」というカテゴリーの管が設置されているという話は聞いたことがなく、従って「工下」と書かれたこの蓋の正体は判然としなかった(発見時のツイートでは、私は誤記を疑っている)。疑問に思いながらも、そうこうするうちにいつしか撮影場所も忘れてしまい、調査することもできなくなってしまった、のであった。
この蓋はきのう地元のマンホロジスト(昨年マンホールナイトを開催した古書カフェ「くしゃまんべ」マスター)によって発見され、Twitterでちょっとした話題になった。
togetter: 豊島橋上にある「工」と「下」の文字が混在する空気弁の蓋。@東京都北区豊島
これを見て私も昨年のこの蓋との出会いを思い出した。場所が正確にわかったのを機会に、いろいろと資料を探してみることにした。その成果は先のtogetterの後ろの方にもまとめられているが、備忘録としてここにも書いておく。
(1)まず第一に、工業用下水という独自の排水系統はやっぱりないみたいだった。都の工業用水道条例等関連法規をみても、空気弁が用いられるような設備が存在するようには見えない。
(2)平成22年度 東京都下水道事業年報(PDF)のp.291によると、平成8年度まで下水道局の三河島処理場の処理水を工業用水道に供給していたことがわかる。さらに、工業用水道の系統図によると、問題の豊島橋あたりに給水路が描かれている。これならば、下水と工水両方に関わる設備であるといえるので「工下」なる表示に不自然はない。
(3)一方で、下水道台帳を参照すると、問題の箇所には送泥管が描かれており、空気弁の記述もちゃんとある。問題の蓋がこれのことである可能性は大きいが、それならば「工」の表示は何なの? という疑問は残る。平成9年度以降、下水道局が処理水のパイプラインを送泥管に転用したというなら平仄は合うが…(転用できるものなのかは知らないが、もともとあった圧送機能を活かすという点で、机上のものとはいえいいアイデアではある)。
これらを総合的に勘案すると、概ね以下のような仮説が導ける。
①H8度まで工水への処理水供給用だったのを、H9度以降送泥管に転用した
②工水管と送泥管それぞれの弁が同じ箇所に揃えてあって蓋を共用している
③図面にある送泥管の空気弁とはあくまで別口で、H9度以降は工水専用である
以上、全部机上の論(当世風に言えばPC前の空論?)であり、正解はわからない。
中の人に問い合わせればひょっとしたら教えてもらえるであろうことを鳩首して推測する、これがSNS時代のマンホール趣味の醍醐味なのであります。
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