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上野に現れたガラス製マンホールの驚異: 快作「Cathedral」(芸大卒展)について

(2013/02/07 加筆)

普段骨董蓋や都内の地味な蓋ばかり扱っている当ブログにはやや希薄な指向ではあるが、芸術としてマンホールを鑑賞する趣味は世の中にそう珍しいものではない。
路上の芸術」などと本の題名にもなっているデザインマンホールの意匠の鑑賞は、すでにそれなりのポピュラリティを獲得した趣味となっているといっていいだろう(世界一のマンホール画像投稿サイト「マンホールマップ」のこの盛況ぶりを見よ!)。芸術写真の分野では、林丈二「マンホールの蓋(ヨーロッパ篇)」やRemo Camerotaの"Drainspotting: Japanese Manhole Covers."といった作品が知られている。
さらにちょっと変わったところでは、Quilting With Manhole Covers: A Treasure Trove of Unique Designs from the Streets of Japan.という、日本のデザインマンホールをキルトにしてしまおうという二次創作のアイデアも出版されている。デザインマンホールとは違うが、市販されているマンホールコースター(下画像)などもこうした二次創作の系譜に属するといえよう。




   ※   ※   ※   

ところで、かねてから筆者は、こうしたデザインマンホール蓋だけが芸術ではあるまいと思っていた。いわゆる地味蓋にも適切な芸術上の評価(たとえばヨゼフ・チャペックのいう"Nejskromnější umění"の一実践として)を与えるべきだし、また地味蓋の意匠なりを活用した新機軸のなにがしかが芸術界の本流から生まれないものかと素人ながら夢見ていたのである。
そこに登場したのが、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科のタマガワ氏(@TAMAliver)であった。昨秋の第三回マンホールナイトにマンホールスタンプを披露し、斯界の話題を攫ったのであった。

タマガワ氏ガラスマンホール(0)
同夜の配布資料に捺したもの。コピー用紙が地面になったような感覚と、いかにも印璽なかすれてぼやけた味が面白い(タマガワ氏のFlickrに色々上がっているのでほかの作例はそちらをどうぞ)。

そんなタマガワ氏が卒業制作として原寸大のガラス製マンホールをこしらえているという話はtwitterで漏れ聞こえており、#manhotalk界隈でも噂になっていた。
それが無事完成し、1月末の卒制展で上野にやってくるという。で、30日、会期末前日に観に行ってきた。

これ↓である
第61回 東京藝術大学卒業・修了作品展  http://geidaisotsuten.info/

   ※   ※   ※   

すでに見てきた人の話では、問題の作品は門の近くの野外展示でよく目立つという。会場に入ると、さっそく…

タマガワ氏ガラスマンホール (1)
…これじゃないか? とひと目で判った。一辺が2メートル以上はあるだろう、角材と板で組み上げられた異様な立方体が鎮座していた。右端に映っているネイティヴナントカンのテントのような作品と好対照だ(妖しさは共通しているが)。

タマガワ氏ガラスマンホール(6)
裏から見るとこうだ。開口部がない分もっと怪しい。乱歩の「鏡地獄」的何か、あるいは「アクアリウムの夜」のカメラ・オブスクラ的何かを思わせる異様さだが、恐れず入ってみよう。

@rzeka_52 特に問題ないです。作家名なども伏せる必要ありません。... on Twitpic
そうそう、中に入る前に。タイトルはCathedral、作者は玉川翔太郎氏であります。

タマガワ氏ガラスマンホール (4) タマガワ氏ガラスマンホール (5)
入ると誰しも光の映える空間に安堵しつつ驚嘆するだろう。黒く塗られた天井に、サイコロの5の配置で5枚のガラスマンホールが嵌めこまれていた。中央にあるのが東京都下水道局の先代の人孔丸蓋だ。それを東電・NTT・東京ガス・台東区CCBOXの地味蓋が取り囲んでいる(向きを変えて2枚撮ったのだが、勘違いでどちらにもガスは入っていなかった)。模様は多分すりガラスの要領で刻んであるのだと思う。
蓋の意匠を透してペールブルーの冬の空が見える。角度によっては建物が入り込んだり、木立の緑なす枝先が見え隠れする。これは、なんだろう。名状しがたいがとにかく得がたい体験だ。透視能力のある汚水になればこういう光景を目にすることができるのだろうか。そんな汚水があるか。
この5枚がいいのは、装飾の控えめな地味蓋を取り上げていることだろう。おかげで蓋越しの景観という見方の邪魔をしない。そのため、この蓋越しに何かを見るという趣向の応用の幅が広そうで面白い。花鳥風月天地人神社仏閣犬猫ウサギ宇宙人、何を見ても新世界が開けそうだ。そうだ、ガラスの下水蓋を持って花見に赴いたならば、これまでにない本人登場写真が撮れそうだ。
あるいは地面に嵌めて下を見るというのはどうか。本来の遮断機能が失われた、流れる汚物まる見えのマンホールというのはなかなか刺激的だ。汚水枡蓋がガラスの物件に住んで排水や排泄物を全公開するプロジェクトとか誰かやると良い。夫婦でベッドで過ごしたりする公開パフォーマンスよりも面白いと思う。

タマガワ氏ガラスマンホール (2)
また、ガラスの蓋そのものを見るだけが本作の楽しみ方ではない。それ以上に壁や床に落ちる影を見るのも趣深い。西洋の古い大聖堂 Cathedralのステンドグラスなどは本来、暗い堂内に逆光を受けて落ちる光を見るものだろうが、このささやかな箱の中のモノトーンの光陰は同じ原理に基づきながら、ステンドグラスとは対照的に東洋的枯淡を感じさせる。
長明の結んだ方丈よりも更に小さい空間に大聖堂と命名されているのは一見逆説的ではあるが、光の芸術体験という構造は通底しており、シンプルな構成の本作品は人間が光の技芸に覚える原初的な感興を呼び覚ますものといえる。
暗い谷底に射す一本きりの光線、夜の間に積もった一面の雪の照り返し、跳躍する魚の鱗、拾ったぴかぴか光る鉱石……個人の、ひいては人類の記憶の奥底にはこうした光の戯れに心奪われた幼時体験のようなものがあるだろうが、本作の感銘はそれらの全き延長線上にあるように思われた。高次だが極めて素朴な芸術体験といえないか。

タマガワ氏ガラスマンホール (3)
…なんて理屈はさておくとして、改めてこの美しさはどうだ。すりガラスくらいの模様でもこんなにはっきりとした影を作るのか。
前言を翻すようだが、これはやっぱり「鏡地獄」な世界だ。素朴なスタイルからそれなりにひねくれた幻惑をももたらす、油断ならない円盤であり作者である。
せっかくのガラスマンホールなのだから、鋳鉄の蓋ではできないこの見方こそが醍醐味だろうか。

ものの十分も箱の内外をウロウロしていたが、だんだん展示向かいのテントにいる係員の目が気になってきたので、

香爐峰の雪は簾をかかげて看る
ガラスのマンホールは壁に映して観る

と贋白居易を感想ノートに書き残して作品を後にした。

   ※   ※   ※   



↑2つは、展覧会現地での私のツイートである。
そういえば、この作品は上から見るとこういう具合だったそうだ。撮影者はマンホールナイトの席亭でもある古書カフェ・くしゃまんべの店長。

   ※   ※   ※   

なおこの作品は、作者のタマガワ氏によれば販売の意向であるという。興味ある向きはTwitterででも作者本人と連絡をとってみてはいかがだろうか(以下の埋め込みツイート参照)。
私も親の遺産が銀行口座にうなっていたりすれば、引き取って天窓にでもするのだが(材質上そこまでは無理か?)。



   ※   ※   ※

(中宮定子)「少納言よ、玻璃の人孔丸蓋いかならむ」
(清少納言、タマガワ氏を下総取手より招き)Cathedral組み上げさせてガラスマンホールを高く嵌めたれば笑はせ給ふ。                                      (贋枕草子・二九九より)
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因果なことにアカデミックニート=人文系大学院生でもある。
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